「Associated Nature /よりそう自然」が目指しているのは、あいまいな「自然」という対象に、人が意識的になることです。これまで、身のまわりの植物の健康状態は、すぐ身近にありながらも目には見えませんでしたが、技術の発達により、人がそれをデータとして受取れる未来は、そう遠くはありません。このプロジェクトは「COOL CHOICE※1」推進のための未来に向けたアイデアです。
AI(人工知能)やIoT技術が、私たちの未来を変える研究として注目されています。様々な分野において実用化されつつありますが、人間ではなく「自然の声」を聞くことを目的としたものは、ほとんどありません。このプロジェクトは、地中に存在する「ファンガルネットワーク※2」から読み取れる、植物の健康状態を示すデータを取り出し、それを応用することで、人間と自然とが共生する未来の実現を目指します。
BIoTプロジェクトでは、地域のファンガルネットワークにBIoTデバイスを接続し、自分が住む近隣エリアの「自然の健康状態」を可視化します。例えば、建物の窓に取り付けられたBIoTデバイスにより、近隣の樹木がどのくらいCO2を消費しているのか、水分や栄養は足りているか、天候等によるストレスはないかなどを、常時モニタリングできる仕組みとなっています。
人間の活動やエネルギー消費量に関するデータは、近年急速に普及しつつあるIoTデバイスから収集。そして、日本中のBIoTデバイスからは自然のデータが集められます。この両者のデータは、気象データなどと共にクラウド上に蓄積され、日本全体のスケールで運用されることが考えられます。その結果、例えば、地域や国全体のエネルギー消費量の予報や、植物の健康状態が、日常生活でふれるテレビやインターネットを通じて発信されるようになるのです。
それぞれのデータの相関、人間と自然とが共生するために必要な情報はAIが分析。一人ひとりのどのような行動がエネルギー消費量を減らすことにつながるのかを教えてくれます。「人のための情報」だけでなく、「人と自然のバランスを理解するための情報」を目にすることが、日常の一部となるのです。
人間の生活においては、エネルギー消費量をゼロにすることは、残念ながらほぼ不可能と考えられています。さらにこれまでは「自然にやさしい生活をしよう」とか、「エネルギーを節減する行動をしよう」とかと考えても、その目標も、自然へ与えられる影響も、非常にわかりにくかったのが現実です。しかし、近い未来、正確なデータの収集と的確な解析により、人間の行動によるエネルギー消費量と、自然の状態が情報として可視化されれば、私たちの「となりの自然」に対する具体的な行動を起こす機会も増えるでしょう。
日本には「自然の声に耳を傾ける」という表現があります。植物たちはこれまでも、人々へ何かを伝えようとしてきたのかもしれませんが、その全てを人間には理解できませんでした。しかし先端技術を介すことで、植物たち自らが発する声は、今度こそ人間に届く「声」となります。自然と人間とが本当の隣人として共生できる社会を目指します。
※1
「COOL CHOICE」とは、2030年度に温室効果ガス排出量を、2013年度比で26%削減するという目標達成のため、地球温暖化対策に資するあらゆる「賢い選択」をしていこうという取り組みです。
※2
「ファンガルネットワーク」とは菌根菌(多くのキノコ類)が植物同士をつなぐ地中の共生ネットワークのことで、自然界に存在するインターネットのようなもの。キノコ類が地中で菌根(土の中で糸状の菌が、樹木などの植物の根の表面や内部に根を張った状態のこと)を伸ばし、樹木など他の植物の根につながって、共生状態を生み出している。このネットワークを通じて、キノコの菌は土の中の栄養素を植物に提供する代わりに、植物が光合成で作ったエネルギー(糖類などの炭素化合物)を受け取っていることが、すでにわかっている。
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