デザインで介護業界を再定義する:As Partners × DLX
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As PartnersとDLXデザインラボによる4か月間の協働は、介護現場における孤独、テクノロジーの役割、そして産学連携の可能性について何を明らかにしたのか。
「覚悟して、大学時代の友人とご縁を切ろうと思って、ここに入居しました。」
「入居にあたって趣味も全部やめましたね。」
これらは、DLXのチームがAs Partnersの介護施設でフィールドリサーチを行う中で、入居者の方々から聞いた言葉です。調査を通じて見えてきたのは、入居者一人ひとりの暮らしの実態と、孤独が単なる物理的な孤立だけでなく、人とのつながりや日々の習慣、自立性の喪失によっても生まれるということでした。
「Project Collins」は、東京大学生産技術研究所DLXデザインラボと、首都圏で25以上の介護付きホームを運営するAs Partnersによる、2025年1月から4月までの4か月間にわたる共同デザインプロジェクトです。日本の高齢化が進む中、孤独はますます深刻な社会課題となっています。本プロジェクトでは、デザインを通じて高齢者コミュニティの中に喜びやつながり、そして生きがいを生み出す方法を探求しました。
その成果として生まれたコンセプトは、水分補給の場をコミュニティの交流拠点として活用するアイデアから、入居者の感情状態を穏やかに捉えるバイオセンサーまで、多岐にわたりました。未来志向のデザインアプローチを用いることで、介護現場の日常的な現実に根ざしながらも、新たな可能性の領域を描き出しました。
プロジェクト終了から約1年後、DLXデザインラボのマイルズ・ペニントン教授と、As Partners代表取締役社長の植村健志氏が対談を行い、本プロジェクトから見えてきた学びや示唆について語りました。以下は、その対談で取り上げられた主なテーマの一部です。

孤独と高齢者介護
ーいずれ誰もが、何らかの形で向き合うことになるー
マイルズ・ペニントン教授:孤独というテーマは、私自身にとっても非常に身近なものです。私の母は現在、イギリスの介護施設で暮らしています。母を施設へ移す際に最も辛かったのは、長年の友人たちや慣れ親しんだ地域から引き離すことでした。母はとても孤独を感じていました。何か月もの間、毎日のように荷物をまとめては「家に帰りたい」と言っていたのを覚えています。
植村健志社長:かつて日本では、高齢者向けのホームは「住まい」というより、「施設」や「病院」として捉えられていました。こうした場所ではレクリエーション活動も行われていますが、どこか幼稚園のような内容になってしまうこともあり、私は入居者の方々の表情に退屈さを感じることがありました。一人ひとりに「こんなふうに生きたい」という思いがあります。その人らしく、楽しみながら暮らせる環境をつくりたいと考えるようになったのです。
介護業界におけるテクノロジー
ーテクノロジーは多くのことを担えるが、介護の最も人間的な部分までは代替できないー
植村社長:当社は約8年前からテクノロジーの活用によるケアの質向上と業務効率化に取り組み、その変革を業界全体へ広げていこうとしています。高齢者が増加し、働き手が減少する日本の人口構造の中で、課題解決の鍵は生産性向上であり、その中心はテクノロジーにあると考えています。
ただし、テクノロジーによって介護業務の多くを担えるようになったとしても、いわゆる三大介助と呼ばれる排泄・入浴・食事の介助をどこまでロボットができるかが課題だと思われます。これらの介助は精神的にもデリケートな内容が含まれておりますし、体調の変化などに気付くポイントでもあるので、最終的には人間が関わる必要があるんじゃないかと考えます。
ペニントン教授:テクノロジーは間違いなく助けになるはずです。現在、私たちはAIやロボティクスの大きな変革の時代を迎えており、これらは介護の現場にも大きな影響を与える可能性があります。
しかし同時に、これは非常に人間中心的な課題でもあります。介護とは「ケアを提供すること」であり、その本質は「ケア」そのものにあります。人と人との関わりだからこそ、テクノロジーだけで解決できるものではありません。重要なのは、人間中心の視点でテクノロジーを活用し、どのように新しい解決策を生み出せるかを考えることだと思います。
産学連携
ー最も重要な仕事は、プロジェクトが始まる前に行われる。目的や期待値をすり合わせることだ。ー
ペニントン教授:大学と社会の間には、しばしば理解のギャップがあります。しかし、そのギャップを埋める方法は数多くあります。例えば、研究を一般の方々にも分かりやすく魅力的な形で伝えること、研究活動に市民の方々に参加してもらうこと、研究成果を実際の製品やサービスへとつなげること、あるいは研究者自身が自らの研究と社会への影響について考える機会を持つことなどです。もちろん、「社会」の中には企業も含まれています。そのため、DLXでは企業と大学の研究をつなぐことも重要な役割の一つだと考えています。
植村社長:企業にとって、大学と連携する一番の価値はやはりナレッジだと思っています。研究のゴールは論文になることも多いですが、企業が研究の途中から関わることで、その成果を社会の中でどう活かしていくか、製品やサービスとしてどう届けていくかを一緒に考えられる。大学と企業ではスタンスが異なりますが、その違いがあるからこそ一緒にやる価値があると思っています。
ペニントン教授:DLXデザインラボのような存在は、研究と社会、大学と企業をつなぐ橋渡し役になれると思っています。産学連携を考える上で、特に重要なのは「時間軸の違い」を理解することです。
大学の研究は常に知の最前線を探求しています。研究者の目的は新しい知識を発見し、世界への理解を広げることであり、それには時間がかかります。一方で企業は、比較的短い時間軸の中で事業機会を生み出すことを求められます。
そのため、企業と研究者の間には認識のずれが生じることがあります。お互いの目的やニーズを理解し合うには時間が必要です。そして私たちは、その相互理解を促進するための手段として、しばしばデザインを活用しています。
植村社長:時間軸と目的意識を共有することが重要だと思います。それがなければ、企業としてはなかなか具体的な行動に移すことができません。
もちろん、最初からすべてが明確になっている必要はなく、試行錯誤もあるでしょう。しかし共通のビジョンを持つことができれば、一社だけでなく、業界全体、さらには社会全体を巻き込んだ取り組みへと発展していく可能性があると思います。
ペニントン教授:企業と大学が効果的に協働するための仕組みは、長期的な視点で築いていく必要があります。それは、明確な事業目標の達成を目指す企業の研究開発とは異なる種類の活動です。短期間で利益につながる高速なプロジェクトではなく、共に探索し学び続けるための長期的な関係性が重要になります。
植村社長:私もそう思います。企業としては、長期間にわたる純粋な研究開発を続けることはなかなか難しいのが現実です。だからこそ、産学連携では時間軸を合わせ、共通の目的を持つことが重要だと思っています。最初からすべてが決まっている必要はありませんが、一つの目標に向かって産業界と学術界が協力できれば、それは非常に大きな力になると思います。
2026年6月26日

マイルズ・ペニントン
東京大学大学教授
デザイン先導イノベーションを専門とし、DLXデザインラボのディレクターを務める。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで教授・学科長を歴任後、17年より東大生産技術研究所教授、東大総長特任補佐。
植村 健志
株式会社アズパートナーズ 代表取締役社長兼CEO
介護付きホームを中心としたシニア事業と不動産事業を展開し、EGAO link®をはじめとするIoTシステムで介護業界のDXを牽引。リクルートコスモス、宝工務店で住宅開発・経営に携わった後、2004年にアズパートナーズを設立。一般社団法人全国介護付きホーム協会副代表理事。

